アンフボルド氏: インベスコアの成功は多くのモンゴル企業の海外 進出の足掛かりとなると信じています

特集
bolormaa@montsame.gov.mn
2021-12-29 18:55:53

モ日外交関係樹立50周年記念に向けて

「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」(シリーズIV)

 

 弊紙「モンゴル通信」は、来年2022年のモンゴル・日本外交関係樹立50周年の記念に向けて、在モンゴル日本大使館と協力の下、「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」をテーマに、両国のビジネス分野で活躍し、日本で学んだ経験を持つ企業家をシリーズで紹介している。なお、今年最後のシリーズでは国内の金融と建設業で活躍しているインベスコア社の代表取締役のバヤンムンフ・アンフボルド氏と小林弘之日本大使との興味深い対談をお届けする。

アンフボルド社長は、立命館アジア太平洋大学(APU)の第一期卒業生であり、異文化体験こそが現在のビジネスの成功につながると誇りに話す。

 人材を一番大切にするという企業文化を持つ同社は中央アジア諸国へ金融やフィンテックビジネスの展開に注力している。

 

小林大使:アンフボルド社長は2000年に立命館アジア太平洋大学(APU)の第一期生として入学し卒業されました。モンゴル国内の大学ではなく、世界の数ある大学の中から日本のAPUに進学された経緯をお聞かせください。

アンフボルド社長(以下「Ankh」):モンゴルの民主化直後の厳しい状況の中で青少年時代を送る中で、盛田昭夫氏、松下幸之助氏、本田宗一郎氏など著名な経営者たちの本にめぐり逢い、日本という国に憧れを持っていました。当時、モンゴルの義務教育は10年制で、日本の大学に入学するにはモンゴルの大学で2年間勉強する必要がありました。このためモンゴル国立大学経済学部に先ず進学したのですが、ちょうど2年生の時に、国際大学として立命館APUが新設されるという縁に遭遇しました。立命館APUは英語による教育システムを採用しており日本語を習得せずとも入学できること、世界70か国の留学生と一緒に学べることが非常に魅力的で、同大学への留学を決めました。改めて振り返って見ると、様々な国の学生・教員との交流を通じた異文化体験が、自分の今のビジネスに不可欠である広い視野を育んでくれたと思います。

 

小林大使:大学ご卒業後の日本との関わりについて、お聞かせください。

Ankh立命館APU大学及び大学院を続けて卒業した後、アビームコンサルティングという日本のコンサルティング会社で約6年半働きました。サプライチェーン事業部に配属となり、ハイテックメーカー、化粧品メーカー、欧州の電子製品販売企業、オーストラリアの物流企業などの様々なプロジェクトを短期間のうちに経験させて頂きました。当初は5年間働いたあとモンゴルに戻って起業する計画でしたが、担当のプロジェクトを成功させるため帰国予定を約1年遅らせました。2012年にモンゴルに帰国後は、先に小林大使に対談頂いた妻と共にダイソー、カゴメ、ピジョン、Goonなど日本ブランドをモンゴルに紹介し広める事業に携わってきました。そして、予てから温めてきたアイデアを実現するために友人と一緒にインベスコアを2016年に立ち上げ、日本の投資家から投資を頂き事業を加速させてきております。

 

小林大使:これまで触れてこられた日本の社会・文化に関し、最も印象深いもの、モンゴルが参考とすべきと感じられたものをお聞かせください。

Ankh沢山ある中でやはり一番は責任感と相手に対する思いやりの気持ちです。これらは最近のモンゴルで希薄になりつつあると感じています。大分県に私の恩人である岡洋一郎さんがいます。私を含めモンゴル人留学生の面倒をとても良く見て下さいました。この岡さんにいろいろ教わった中で一番印象に残っている出来事をお話ししたいと思います。ある日、後輩のモンゴル人学生の1人から授業料が工面できないので約15万円支援して欲しいと言われました。5万円は何とかできたのですが、残り10万円はどうしても足りず、岡さんに貸してもらおうと思いました。岡さんは九州で大きな石油会社をもっており、それまでも多額のお金をモンゴル人のために費やして下さっていました。岡さんのお家に行きお願いをしたところ、当時大学2年生の私には思いつかないような返事が返ってきました。それはなんと後輩の月ごとの収入と支出を細かく計算して安心できる返済計画を示し、更に保証人としてアンハ君(自分)の念書を書いてきてくれというものでした。翌日、エクセルを使って計算した返済計画、自分がサインした念書を持って岡さんのところに行ったのですが、税金の計算方法など完璧な計画になるまで何度も修正させられました。そして最後に、やっと15万円をポケットから出してくれました。もちろん後輩はその後一生懸命アルバイトをして約束通り返済し終えました。岡さんにとって15万円は大した金額でなかったはずですが、我々に借金の重大さ、人を紹介するときの責任をこうした厳しいやり方で教えてくれていたのです。これこそ真に相手を思う心であり、感謝に堪えません。

 

Ankh大使はモンゴルが社会主義国家だった1985年からモンゴルに計3回勤務なされ、モンゴルの変革を間近で見てきておられると思います。モンゴルがこの間一番失ったものと得たものは何と思いますか。

小林大使:私が皆様に良く言うことがあります。それは、現在のモンゴルには解決すべき課題がいくつもあるものの、1985年から4年間私が暮らしたモンゴルと比べると、今のモンゴルは天国のようであるということです。社会主義時代と自由・民主主義時代とでは社会の価値観が異なるので単純な比較はできないかもしれませんが、時には行き過ぎかなと思うほどの思想・表現・行動の自由が今のモンゴルで謳歌されていることは社会主義時代との大きな違いであると思います。一方で、モンゴルに限られませんが、自由には責任が伴うという点が見落とされがちであることを指摘したいと思います。

 

小林大使:Invescore社を設立された経緯、創業からこれまでの御苦労をお聞かせください。

Ankhインベスコアを一緒に立ち上げた友人たちは皆、金融業に精通していました。モンゴルの金融業界において銀行業の発達は堅調だと思いますが、その他の業種はマネジメント、人材、技術あらゆる面で銀行に大きく遅れをとっている状況でした。そこで、我々は、証券、ノンバンクといった金融業をITを活用して効率化し、今までにない商品をお客様に提供したいと思いました。ただし問題はやはり、優秀な人材の確保でした。優秀な人材は大抵、安定した良い会社に勤めています。そういった会社を辞めて、ベンチャーに入ってくれる人はなかなかいません。インベスコア創業者全員で優秀な人材を探し、やっとの思いで見つけた人材に我々のビジョンを一生懸命説明し、転職を決断して貰いました。その時の苦労が人を一番大事にする我々の企業カルチャーに繋がっています。

 

小林大使:御社は現在、様々なローンの提供を始め、コロナ禍においても積極的に事業展開をされていると承知しています。そのような御社の事業経験から、モンゴル社会・経済の今後の見通し及び期待につきお聞かせください。

Ankhモンゴルの経済は主に5種類の地下資源(石炭、銅、モリブデン、金、蛍石)の輸出から成り立っていると言っても過言ではありません。またロジスティックの面で、中国というたった1つの国に輸出や輸入のほとんどが依存しています。国内市場が小さいため、モンゴルはなかなか大きなビジネスが育ち難い環境です。こういった要因を含めて、モンゴル経済の今後の拡大を考えると、IT商品やサービスといった陸送に依存しない商品・サービスの輸出、海外市場への投資に一番力を入れるべきと考えています。現在、インベスコアは、金融やフィンテックビジネスを中央アジアの国々に展開しようと注力しています。人々の考え方、文化、経済や法律環境などがモンゴルに比較的近いこれらの国に、モンゴル企業であるインベスコアがビジネスを展開する利点はたいへん大きいと思いますし、インベスコアの成功は多くのモンゴル企業の海外進出の足掛かりとなると信じています。


 小林大使:日本大使館からは、御社が建設したマンションを眺めることができます。ウランバートル市内では既に多くのマンションが建設され、また今も建設中である中、御社はどのような戦略を持ってマンション建設・経営に参入されたのでしょうか。

Ankh弊社は、日本の不動産管理システム、サービスをモンゴルに導入したいと考えています。モンゴルでは建設技術やノウハウは日々進化しています。ただし、アフターフォローとして不動産管理がしっかりできていないため、中古物件の不動産価格が大きく下落してしまいます。そこで、不動産管理がちゃんとしているサービスマンションを建て、投資家に購入してもらい、その物件の賃貸、管理を弊社で担うという事業を実施しています。今後もかかる方向で不動産部門の事業を拡大・強化していく考えです。

 


小林大使:御社の今後の目標を教えてください。

Ankh先に申し上げたようにモンゴルの市場で結果を出した弊社の商品やビジネスモデルを中央アジアの市場に展開するのが当面の目標です。海外に目を向けることによって、我々も従業員も1つ上のレベルで物事を考え、成長できると確信しています。金融業の特徴として、その国の経済、マーケットの正確な情報が一番集まりやすいという点があります。これを活かして、次に進出するモンゴル企業、そして自分が多くを学んだ日本の企業とのパイプ役になれたらと考えています。

 

Ankh小林大使はモンゴルと日本の経済交流拡大に勢力的に取り組んでいらっしゃると感じております。経済交流をさらに飛躍させるには何が一番必要とお考えでしょうか。

小林大使:日本とモンゴルが自国を更に発展させる上で、両国間の経済交流拡大が重要であると確信しています。そのために当面重要なのは、日本からの投資をモンゴルに誘致することだと思います。例えば、日本の投資によってモンゴルに工場ができれば、①モンゴル人を雇用する機会が生まれ、②モンゴル人従業員が工場の技術・経営を学べ、③工場の活動に必要な物・サービスを納入するモンゴル企業に利益がもたらされ、④工場からの納税によってモンゴルの歳入増に寄与します。しかし、単に「投資をして下さい。」と呼びかけるだけでは投資は実現しません。投資家は利益を生む投資先を選択する立場にありますので、モンゴル自身が投資先として魅力的な環境を整備しなければなりません。モンゴルは諸外国と投資を取り合う競争をしていることを良く理解して欲しいと思います。モンゴルに工場を建てようとしたが、工場用地までのアクセス道路、上下水道、電線等の基礎インフラが整備されておらず工場自身が経費を負担しこれを整備しなければならないのは投資家にとって大きな負担です。私は2018年~2019年に米国ナッシュビル市の日本国総領事として勤務をしていた際、所管の5州(アーカンソー、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピー及びテネシー)の各経済開発当局が外国投資を誘致するために大変な努力をしていることを目の当たりにしました。工場用地までのインフラ(道路、上下水道、電線等)が整備された工場用地を紹介・用意し、工場稼働後数年間について所得税を減税する等のインセンティブを提示し競争していました。工場用地の立地面で不利な州は、税制面等でより有利な条件を提示しないと投資を呼び込めません。私は日本の皆様に対しては、モンゴルは民主化後30年の基盤作りを終えて次の段階に入ったこと、優秀な人材が増えてきていること等を伝え、今が投資のチャンスであると呼びかけています。一方でモンゴルの皆様に対しては、諸外国の努力も参考としつつ投資誘致のための一層の環境整備をお願いしています。

 

小林大使:日本留学経験者として、これから日本留学を目指す若者にアドバイスをお願いします。

Ankh日本の国そして国民から学ぶことが非常に多いと思います。何事にも前向きな姿勢で真剣に取り組めば、日本は人を大きく成長させてくれる環境を提供してくれます。アドバイスとしてまずは、日本に行く目標を真剣に考え、それに到達する道のりを描いておくことです。目標が曖昧だとその後の行動もぶれてきます。2つ目は日本の歴史、文化、習慣などをよく研究し、相手の言葉や行動を理解しようと努力することです。自分の価値観から相手の言動を判断し、衝突を起こしたりする前にまずは相手を理解しようと努力する癖がつけば、短期間で多くの友人を得ることができ、充実した留学生活を送れるようになります。

 

Ankh企業の原動力は優秀な人材にあると考えております。モンゴルの教育、人材開発において日本政府は長年力を入れて支援してきました。モンゴルの教育システムにおいて改善すべきポイントは何でしょうか。

小林大使:モンゴルの高校生の中に数学、物理等のオリンピックで優秀な成績を修める子供たちが数多く育っています。こういう子供たちがモンゴルでどのような教育を受けているのか私自身たいへん興味があります。一般的には、モンゴルの子供たちは記憶力に秀でていますが、記憶した知識を実際の生活に活用・応用する機会が学校教育の中では十分でないように見受けられます。例えばカリキュラムの中に生物・科学・物理の実験、技術家庭科での工作・料理といった体験の機会を増やすことが、知識を活用・応用することへの子供たちの意欲を刺激してくれるのではないかと思います。2部(入替)制、厳しい場合には3部(入替)制で子供たちに授業を行う環境では難しいと思いますが、日本の学校で実践されている、放課後の部活動といった制度もモンゴルの将来を担う子供たちの教育に有益かもしれません。私自身が育ってきた時代と今とでは大きな違いがあります。私自身の個人的な考えを述べれば、健康に関する子供たち自身の知識・意識を高めること、ITの知識・技能を向上させることも重要な課題に含まれるのではないかと思います。

Ankhもし大使に世界中の会社のなかから1社を選び、その社長職を1か月体験できるという機会があれば、どの会社を選びますか?

小林大使:私にとって魅力的な企業は非常に沢山ありますが、私自身はこういった企業の社長ポストを体験するよりも、新たなベンチャー企業の立ち上げに挑戦させて欲しいと思います。挑戦する場所は勿論モンゴルです。