元・在大阪モンゴル国総領事チョナイ・クランダさん:工藤美代子の『ホテル・ウランバートル』を翻訳、出版、この国の未来を担う若い人たちに読んでもらいたい

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2021-07-08 11:45:49

 在大阪モンゴル国総領事として、ジャーナリストとして活躍して来たチョナイ・クランダさんが、昨年11月、日本のノンフィクション作家として有名な工藤美代子さんが1990年に書き下ろした、『ホテル ウランバートル』を翻訳し、インテルノム書店より出版した。いま、なぜこの時期に?新型ウイルスコロナの渦中にあるUBの街で聞いた。

 ――ご出版、おめでとうございます。この本の出版は、昨年11月ということですが?

 ええ、そうです。昨年11月にインテルノム書店で出版記念パーティーと記者会見を予定していたのですが、その前日にコロナ防疫による高度警戒態勢が発令されたため、ドタキャンになってしまいました。その後、こうした状況の中で、結局、発表はお流れとなってしまったのです。

 ――それは大変残念でした。で、出版された本のその後は?

いま盛んに利用されているツイッターやメッセンジャーなどSNSのおかげで、購入希望者による配達注文が多く寄せられ、2500冊がほぼ完売しました。

 ――今から約30年前、民主化の嵐が吹き荒れた当時、工藤さんはモンゴルを訪れ、若き革命家ゾリッグの姿を通して、アジア社会主義の未来を問う書き下ろしノンフィクションを出版された。クランダさんは、30年後のいま、翻訳、出版されましたが、その経緯をお聴きしたいです。

 90年の冬、民主連合のもとで、民主化運動を始めていたゾリッグとその仲間の活動に賛同していた私は、ゾリッグに記者をやってと勧められて。アルドチラル・民主主義新聞社で記者として働いていた。ある日、ゾリッグが1冊の日本語の本を持ってきて、「日本語を知っているあなたが読んでくれる?私のことが書かれているようなので」と手渡した。それが、工藤さんの「ホテル ウランバートル」でした。私が内容を説明すると、「面白いね。ぜひ翻訳して」とその場で頼まれました。私はタイプに向かい、彼のために辞書を片手に翻訳し、紙にプリントして渡した。

 ――クランダさんは日本語をどこで習ったのですか? なぜ日本語を選んだのですか?。

 モンゴル国立大学で橋本先生や吉田先生から習いました。選ぶ?社会主義時代に、私たちが選ぶ権利などありませんでしたよ。みんな上から決められた。その頃、日本からの留学生に小長谷有紀さん(現モンゴル研究の第一人者)がいたので親しくなり、日本語で分からないことは教えてもらったりしました。

 ――最初に読んだ時の感想は?

 モンゴルの国内事情なのに、工藤さんのような外国人が関心を持っているのに驚いた。当時、ソ連の崩壊やベルリンの壁崩壊、天安門事件など民主化に関わる出来事の影響で、モンゴルの民主化も世界のジャーナリストたちが注視していたのは、後になって分かりました。

 ――いまになって翻訳、出版されたのは?

 実はゾリッグに翻訳してあげたのも忘れていたんですが(笑)。最近はコロナで自宅にいることが増え、家にいて何もすることがない。そうだ、この時間に、あの本を翻訳し、いまの若者たちが知らない社会主義時代のありのままの姿を知ってもらおうと考え、約8か月かけて翻訳し、出版に漕ぎつけました。今、ゾリッグに翻訳した紙を見返すと、理解してない部分もあったねえ」と苦笑しています。

 ――ところで、ゾリッグさんはどんな人でしたか?

 当時、彼は27歳、私は32歳。彼は大学で経済学を教えていた。非常に頭がよく将来は有能な経済学者になると期待されていました。誠実な人柄で、でも、気の効いた冗談はよく言う。普段はぼそぼそ話していても、演説となると聴くものを説得させる気合を感じました。そうした若き民主化のリーダーに私は憧れていましたね。

 ――ゾリッグさんを暗殺した犯人は捕まっていませんが?

 それは生き証人がいなくなる100年後まで闇の中でしょう。

 ――工藤美代子さんについては?

 彼女の最初のモンゴル訪問は、1989年の観光で、30年前は行動力のある若いジャーナリストでしたよ。モンゴルには4回ほど取材で来られた。その頃、モンゴルに民主化の波が押し寄せ、「噂にのぼる若き指導者が本当に存在するのかどうか。彼に会ってみたい」というのが工藤さんの書く動機だったようです。

今回の出版を聞いてとても喜ばれ、会いたいねという話も出たが、新型コロナのパンデミックでそれも叶わないのが、寂しいです。

 ――クランダさんは、いまのモンゴル社会をどう感じていますか?

 最近、「民主化なんかしたから、社会や経済が混乱し、貧乏な国なった」という批判を聞くことがあります。それは悔しい。民主化はレストランのメニューにあるように決まっているものじゃない。手に入れるのは簡単じゃない。国民がみんなで育て、お世話しなくてはならない。それが不足がちになっている面はあると思うので、多くの人たちと民主化を守り、育てていきたい。自由な発言が出来なかった時代に戻ってはいけないと思っています。ですから、若い人にはこの本をぜひ読んでもらいたい。書店にない場合は図書館に置いてあります。

 ――ありがとうございました。



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