チンギス・ハーン国立博物館を巡る旅:遊牧文明を原物で伝える世界唯一の博物館
社会
(ウランバートル市、2025年11月27日、国営モンツァメ通信社)モンゴル、そして世界史に名を刻んだ偉大なチンギス・ハーンの名を冠した国立博物館を巡る旅を紹介したい。今回、同テーマを取り上げるのは、3年前の2022年に、モンゴル史に黄金の文字で刻まれる大規模なプロジェクトを、モンゴル国民自らの力で実現させたためである。その結実が、ほかにもない「チンギス・ハーン国立博物館」の建設である。それでは、この特別な博物館についてより深く知るため、サンピルドンドブ・チョローン館長兼モンゴル科学技術功労者兼歴史学者に話を伺った。
ーー世界に、歴代の帝国の指導者をテーマにした有名な博物館が数多く存在します。その中で、チンギス・ハーン国立博物館は、どのような点で特に際立っているのでしょうか。また、チンギス・ハーンの歴史的影響力を、他の帝国の指導者らと比較すると、どのような興味深い結論が導き出せると考えられますか。
「チンギス・ハーン」国立博物館の設立は、6年前、オフナー・フレルスフ大統領が当時首相を務めていた際に決定された。この決定は、チンギス・ハーンの名声を世界に広め、啓蒙の殿堂を設けるという歴史的な一歩でもあった。
世界に、名を轟かせ、歴史に足跡を残した王や貴族は数多く存在する。しかし、チンギス・ハーンのように、人類に大きな影響を与えた王はごくわずかである。特に過去1000年間で、際立った偉人の一人であると言えるでしょう。
人類の王国国家が最も活発であった時代から、すでに2000年の歳月が流れた。そのうちの1000年間、偉大なチンギス・ハーンの名声のもとに語り継がれてきた。
偉大な王や貴族の博物館は、大きく分けて二種類ある。一つは、偉大な王や貴族自身がかつて居住していた宮殿を博物館として公開したもので、もう一つは、王や貴族の遺物や記念品を収蔵し、その功績をたたえるために設立された博物館である。
チンギス・ハーンの名を冠したこの博物館は、モンゴル帝国の歴史を伝える博物館にあたる。その展示内容は、大きく三つに分かれている。
第一に、チンギス・ハーンとその祖先である匈奴時代の歴史。第二に、チンギス・ハーンの子孫とモンゴル帝国の時代の歴史。第三に、20世紀初頭、チンギス・ハーンの血を引く人々によって築かれた歴史である。
私たちは70年間、チンギス・ハーンの足跡について語ることが制限されていた。1962年にチンギス・ハーン生誕800周年を祝った際、多くの人々が不当な扱いを受けただけでなく、チンギス・ハーンの歴史を特別に語ることや偉大なハーンを敬う権利も認められていなかった。ところが、1996年に「ワシントン・ポスト」はチンギス・ハーンを「Man of the Millennium(千年の人)」と称賛した。
そのため、チンギス・ハーンの故国を訪れる誰もが、チンギス・ハーンの歴史を学びたいという願望や知ることの必要性を感じることであろう。その歴史を学ぶ上で最も重要なのは、チンギス・ハーンが生まれ育った聖地と文化遺産である。この博物館は、モンゴル国政府が自らの資金で建設した。モンゴルの学者らの理念と知識を土台に、モンゴルの建築家や技術者の知恵、国内外の支援者の協力、そしてモンゴルの芸術家らの知見と創造力を結集して築かれた。
また、世界的なパンデミックという困難な状況の中で完成したこの博物館は、過去30年間におけるモンゴルの文化分野で最大規模の事業のひとつとなった。

天皇陛下が2025年7月7日、「チンギス・ハーン国立博物館」をご訪問された際のご様子
――モンゴル帝国は当時、世界人口のどれほどを支配していたのでしょうか。また、それは世界史上どれほど特別な出来事だったのでしょうか。
人類はモンゴルの歴史、とくにチンギス・ハーンの歴史を様々な視点で見てきた。一方はチンギス・ハーンに征服された側の視点があるし、他方はモンゴル側から「我らがチンギス・ハーン」として見る視点もある。
しかし近年は、人類全体、特に世界の優れた研究者らの学術的成果によって、チンギス・ハーンの歴史を捉える視点が変わってきた。チンギス・ハーンは単なる征服者ではなく、ユーラシアに大規模な交流を生み出した人物として見られるようになっている。当時存在していたのはユーラシア大陸だけで、アメリカ大陸やオーストラリア大陸はまだ「発見」されておらず、アフリカにも強大な帝国はなかった。従って、チンギス・ハーンの帝国の成立により、ヨーロッパとアジアの間に大規模な交流が生まれ、特に経済・産業面での活発な往来が実現した。さらに、最大の交易路であったシルクロードが安全に保たれるようになったことも大きな功績である。数世紀にわたって対立の原因となってきた宗教に対し、自由な信仰を認めた。かつてアジアとヨーロッパの人々は、お互いを遠く隔たった存在だと思っていた。しかし、チンギス・ハーンの時代に、大陸間のつながりや文化的影響が生まれた。このように、チンギス・ハーンは人類の歴史において、数多くの驚くべき業績を残した人物である。今日の人類がなお解決できず、実現を夢見ている多くの課題は、13世紀のモンゴル帝国によってすでに克服されていた。そのため、ジャック・ウェザーフォードは著書『Genghis Khan and the Making of the Modern World』の中で、チンギス・ハーンを現代世界の形成に大きく寄与した人物として描いている。
現代の私たちは、戦争の問題や経済の自由化、宗教の自由といった多くの課題を十分に解決できていない。しかし、モンゴルの偉大なハーンは、13世紀にこれらの課題をすでに解決していた。
このような歴史的事実を踏まえ、チンギス・ハーンやモンゴルの歴史に対する世界の見方も少しずつ変わりつつある。そして、この博物館は、そのような新しい視点や理念を広めるための重要な存在として設立されたのである。
インタビューの続きは「モンゴル通信」新聞でご覧ください。

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