小林大使のオンライン講演会、内容豊富で役立ったと参加者、コロナ禍の中、茂木外相のモンゴル訪問は日・モ友好のハイライト

社会
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2021-02-23 10:42:51

 2月5日、モンゴル日本人会とモンゴル日本商工会の主催による小林弘之駐モンゴル日本国特命全権大使の講演会がオンライ ンで催された。参加者は50人。日本人会の増井会長が「前回、好評だった小林大使の講演会を再度行うことが出来てうれしい事です」と関係者への謝辞を交えて開会の挨拶。司会は三菱商事の浜島さん、総合調整は細川さんが行った。

 小林大使の講演、「最近のモンゴル情勢と政治、経済」は、質疑応答を含め約1時間半。コロナ状況や、ロブサンナムスラ イ・オユンエルデネ新首相による政治・経済、日モ関係など多岐にわたり、随所に余談を交えて「聴く者を飽きさせない充実し た内容だった」と好評であった。以下に講演要旨を4つの項目別にまとめた。

 1.新型コロナウイルス感染症の状況

 昨年の11月まで政府対策は順調であったが、国立感染症センターの看護師から発症したのが始まりで、11月11日にアルタンボラグ国境地から入国した運転手夫妻の感染で驚異の現実となっていった。低いレベルから順に、高度準備警戒態勢、全国警戒態勢、非常事態態勢に分類されるが、今は低レベルだが旧正月に備え、2 月11日から23日までは中レベルに引き上げられる模様。2月5日現在の症例では新規感染者38名で、1日に約30人前後の増加で動いている。世界に比べれば少ないが、感染者は1928人、回復者1430人、治療中 485人、死亡者4名。今後、爆発的に増えないことを願う。このような状況下で日本へ帰国した者は家族を含めて180人、日本から戻ってきたのが35人。今は日本から200人がモンゴルへ戻る希望者で、40人が強く希望している。モンゴルから出るのは柔軟だが、外国人の入国は非常に厳しい。要望あれば政府と話し合う余地はあ る。ワクチン接種は60カ国で始まっているが、ワクチン調達、国民理解の点で課題があるように見える。モンゴル政府は人口の60%調達を目標。インドから無償 で15万回分の供与予定、アストラゼネカのワクチンも入る予定。一般人にいつ実 施されるかは不明。接種のための整備構築が課題。次に、2020年の犯罪動向を紹介する。犯罪数は2万3064件で昨年比-27%で減っているが、コロナ禍による影響で家庭内暴力が増えている。

 モンゴル人口320万人と同程度のアメ リカ・アーカンソー州や茨城県と比較 したら、モンゴルはアーカンソー州の8割、茨城県の9倍。今後、コロナの動向で治安が悪くなるかもしれない。深夜の外出など注意してほしい。

 2.オユンエルデネ新首相の選出 と政治情勢

 1月21日オフナー・フレルスフ首相の辞任、27日に新首相オユンエルデネを選出、29日に新内閣の発表。フレルスフ前首相の辞任は、コロナ感染した母子への不適切な対応があったと思うが、経済社会政策が急務の時に、思い切った決断の印象があり、真意は分からない。6月に行われる大統領選でフレルスフ前首相が出馬の機会に使ったという見方もあ る。6月にはモンゴル人民党創立100周年で、過去3回大統領選挙で負け続けの人民党は負けるわけにいかない事情が影響したものかどうか。新内閣をどうみるか?8閣僚交代、私は首相含め9大臣に表敬挨拶しなければならない。コロナ対策で以前表敬の時にPCR検査を受けたが、綿棒を鼻の奥まで入れられて苦痛、本当にきつかった。今度、新大臣表敬で9回も受けるのは正直、きつい(笑)。閣 僚の半数が交代したが、フレルスフ 前首相がワクチングループ作った、 そのメンバーの4人が入っている。

 オユトルゴイ鉱山対策のための閣僚人事と野党からは攻められている。オユンエルデネ新首相は前政権の官房長官だったので政策に深くかかわってきた人だから、大きく変わることはないと思う。フレルスフ前首相のようなカリスマ的ではないが、固い 信念と理念を持ち、若い世代に対して中・長期的ビジョンでやってくれると期待している。若くて元気、誠実、勤勉、民主主義国への海外経験がある真っすぐで魅力的な人だと思っている。62議席を持つ背景あるので、今までと変わりなく良好な政治が出来ると思うが、大統領選挙が終わるまでは何が起きるか分からないモンゴル。政治が停滞せず、新政権にはコロナ対策はじめ着実に進めてほしいと願っている。

 3.モンゴル経済

 コロナの影響が顕著なのは外国人観光客の激減。2019年に年間57万7000人の観光客が訪れていたが、今はほぼゼロ。甚大な打撃。アジア開発銀行の昨年9月の見通しではモンゴルのGDPの成長率は前年比マイナス2.6%、2021年はプラス5.1%と見る。コロナの今後の動静に左右されるが、どれだけ下方修正されるか注目している。前年度の貿易総額はマイナス6.4%だが、貿易収支は前年比プラス3%なので明るい。モンゴル経済の主力は中国への鉱物の輸出。中国は8から9%の成長率で見通しは暗くない。いま大事なのは、適切なコロナ対策しながら中国側と一層協力してやっていくのが新政権の課題。今はモンゴル国民、社会的弱者に対しての給付金の支給などの支援施策が中心だが、厳しい企業への負担は軽減されておらず、支援がほとんどないのが実態で はないか。企業が存続しなければ失業者が出る。新政権のこれらへの対策に期待している。 オユトルゴイ銅金鉱山への動向は世 界が注目している。坑内掘りの計画で必要経費が大幅に増加し、資金調達が大きな問題となっている。第三者として思うのは4つある。

①鉱山から得る利益だけが利益でないということ。関連企業もこれにより利益を得ていると考えてほしい。

②同鉱山の雇用創出によって1万5000人が働けている。

③世 界一流の鉱山開発企業だから、モンゴルの鉱山労働者が世界的な技術を学ぶチャンスを得ている

④この鉱山の成功が外国からの投資の呼び水となる。モンゴル政府とリオテイントの交渉は容易でないと思うが、契約をチャラにする選択はないと思う。双方が合意するのを願っている。

 4.日本とモンゴルの関係について

 大使館の重要な仕事は両国の友好関係を深めること。昨年はコロナで制約され、満足な活動が出来なかった。その中で昨年10月に実施された茂木外務大臣の訪問は、両国関係にとってのハイライトであった。一行が来た時、送迎した私を含む両国の関係者は茂木外相が帰途についたあと、2週間隔離施設のホテルで過ごした。施設の対応はよかったが、毎食後に食器を自分で洗 わねばならなかったこと、バスタブがなかったので、風呂好きの私にはきつい2週間だった。茂木外相は9日、10日の滞在で小型のチャーター機で来たので、通常のプレスいなかった。一昨年 6月には河野外務大臣(当時)が訪問したので2年連続で日本の外相の訪問となった。コロナ禍のなか、モンゴルを訪問した要人は、9月、中国の王毅然外務大臣と10月の茂木外相のみ。それとロシアの3カ国しかなかった。こんな時期での茂木外相の訪問は両国関係の重視の証で本当によかった。当時のエンフタイワン外務大臣やフレルスフ首相の表敬。テレルジホテルでは両国外相会談を行ない、緊急支援円借款250億ドルの署名式を行った。翌日、 バヤンゴルホテルでバトトルガ大統領と意見交換したが、予定時間をオーバ ーするくらい公私の関係が深まった。茂木外相訪問の特筆すべき点は

①日本は菅政権、モンゴルも新政権 発足。両政府は高いレベルでコンタクトとれた。両外相は公私の関係を強化した。政権は交代したが、前首相、前外相との関係構築は将来の日モにとって重要

②モンゴルがコロナ対策強化の中、戦略的パートナー国としての最初の要人となった。モン ゴルが民主化と市場経済を開始して 以降、日本は一貫してモンゴルを支援して来たが、第3の隣国として初の訪問であったことが、政府と国民に強く印象付けた。

③コロナ克服は各国の努力と国際協力が不可欠。コロナで財政困難なモンゴルに対して、日本が後押し出来た。茂木外相が来る 前に1200万ドルの医療物資、資材を供与、JICAを通じて技術支援の枠組みでマスク、防護服など支援、国際機関を通じてアビガン支援など、モンゴルにとって有意義な支援できた。

④外相訪問を通じて、地域、国際情勢についてインド太平洋の協力を深めることが確認できた。北朝鮮への対応では、安保理の 完全な履行について一致しており、 拉致問題の早期解決に引き続き緊密に連携していく。

⑤日本とモンゴル外交関係樹立50周年にあたる2022年を両国の外相が次の50年を担う若い世代を巻き込んで、盛大に祝賀しよ うと一致した。今年、2021年はモンゴルとロシア外交関係100周年。どんな風に実施されるか関心を持っている。来年にはコロナ環境が大きく改善していると期待し、日本大使館は日モ50年を本格化していくので、皆さんからはアイデアをお願いしたい、その行事へのご参加を願いたい。万が一の場合は、異なる方式でバックアップも準備する。

 次に新国際チンギスハーン空港の現状を。日本側は技術的な課題は解決し、モンゴル側もインフラの整備、バックアップ送電線の設置もした。いつでも開港可能という最終段階に到達している。問題は国際的航空便が回復していない状況で開港しても 財政面での問題が生じる。モンゴルの航空 会社4社、ミアット・モンゴル、アエロ・ モンゴル、フンヌ、エズニスがコロナで体力を激減させているので、新空港への移動準備がすぐ出来ない状況も事実。7月1日を開港目標としているが、そのためにはコロ ナ状況が改善され、ワクチン接種が実施され、国際定期便が半分くらいは回復していてほしい。そうでないと日・モの運営利益にならない。昨年8月、ホブド県へ出張した折、 空港員の情報提供、サービスは全く足りなかった。これでは、お客の満足度からほど遠いと感じた。日本の素晴らしいサービスが新空港に引き継がれ、日本企業が運営に参画することで、空港が変わるということを世界に見せつけてくれる日が早く到来してほしい。アエロフロート機により1時間半で戻れたが、空港から大使館に着くまでに車で1時間半もかかった(笑) 。UBの都市機能の改善は急務。この辺に日本企業の対モ案件が存在しているように思う。オユンエルデネ新政権が誕生したが、大勢を招く行事が当面は難しい。その代わり、積極的にネットを活用していきたいと思っている。モンゴル側の省庁と大使館が共催する形で日本企業対象にモンゴル紹介セミナーをシリーズで実施できないかと検討中。私はインド政府の借款で、サンシャインド近郊に建設予定の石油精製所とか、今後モンゴルで実施される大型プロジェクトの紹介を皆さんに届け、モンゴルの現状を理解してもらうと、モンゴルとのビジネスを考えてもらう上で有意義ではないかと考えている。どのようなセミナー開催を希望しているか、要望とご助言を 大使館の経済開発協力班にご連絡ください。皆さん、コロナの予防に留意し てください。

 質疑応答

 オユトルゴイ問題での大使の回答:オユトルゴイがあることの意義は、今の争点を当てている点だけでない。かつてアラブと同じ「宝の山」のようになると宣伝したことがあり、国民はこれで発展するとの期待感がある。だが坑内掘りの費用がバカ高くなったことで、モンゴル側は利益が減ると反発。双方の言い分は理解できるが、大統領選後には決着すると願っている。中小企業のウエブサイトによるビジネスの流れを大使館が支援してほしいへの回答:ベンチャー企業支援 の流れは出来つつある。50周年までにIT企業集まれとやりたい。閣僚交代での日モ関係についての回答:両国の関係は不 変で変らないと思う。50周年に関しての回答:1972年2月24日に外交関係樹立、1年を通して50周年記念行事を行う。双方で準備していく。閉会の挨拶は日本商工 会の丹羽会長が有意義な講演を大使に感 謝し、「モンゴル政府のコロナ防疫対策はよくやっている。クラスター発生では 全員を隔離し、PCR検査も東京以上。今 後、オンラインを利用し、私たちの活動 を活発化していこう」と結んだ。