トゴス校長:高い志を胸に切磋琢磨しつつ勉学に励み、モンゴルの発展に貢献できる若者を本校卒業生の中から輩出し続ける

特集
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2022-03-23 10:18:19

 モ日外交関係樹立50周年記念に向けて

「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」(シリーズVI)


 弊紙「モンゴル通信」は、今年2022年「モンゴル・日本外交関係樹立50周年」の記念に、在モンゴル日本大使館と協力の下、「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」をテーマに、両国のビジネス分野で活躍し、日本で学んだ経験を持つ企業家をシリーズで紹介している。

今回はモンゴルの教育分野で活躍しているガルバドラフ・トゴス新モンゴル学園CEO兼小中高等学校校長と小林弘之日本大使との対談をお届けする。

新モンゴル学園は学生たちの豊かな感性と人間力を磨くための教育を目指してから創立20年以上の信頼と実績を重ね、国内トップ5以内に入る学園として成長した。毎年10人以上の学生が日本の文部科学省の国費外国人留学生試験に合格する他、国際数学、物理、化学オリンピックに一位になる等の懸命な努力と優秀な成績を挙げた数多くの卒業生が新モンゴル学園の名誉と歴史である。

トゴス校長は「世界に羽ばたく人材として活躍している卒業生の姿は誇らしく素晴らしい。東北大学で学んだ法学と経営学(MBA)、そして国家公務員としての長年の経験を活かし、未来を担う子どもたちの育成を一層推進する学校経営に取り組んでいく」と今後の意欲を熱心に語る。


小林大使: 新モンゴル学園は創立21年目の日本式の学校としてモンゴルで有名ですが、「日本式」とはどんな特徴があるのか、新モンゴル学園の教育方針について教えてください。さらに、今後、トゴス校長はどのような教育を目指しておられるのでしょうか。また、21年間モンゴルで受け入れられてきた理由をどのように考えておられますか。

 

トゴス校長: 新モンゴル学園は、「国の発展は国民の教養次第、国民の教養は質の良い教育次第」という理念を設立当初から掲げています。父ジャンチブ・ガルバドラハ(現在の学園理事長)がこの理念を信奉し、学園を設立したわけですが、以来、学園の教職員すべてがこの理念を深く理解し、教育に取り組んでいます。そして、この理念の下、国の発展に貢献する様々な分野のリーダーを養成することを目指し、子どもたちの心技体のバランスを大切にするとの教育方針に拠っています。設立当初のモンゴルでは、知識偏重の教育が一般的でしたが、子供たちの才能と心身の発達を謳い、それを実現しようとする新モンゴル学校(当時)の教育は斬新かつ、保護者の思いに合致するものでした。20年間にわたり、この理念にもとづいた教育を一貫して続け、世界に羽ばたく素晴らしい卒業生を数多く輩出するとの実績を残しました。これによって、モンゴル国内で「新モンゴルの生徒はしっかりしていて、礼儀正しい。どこか違う。」という評判が広まり、モンゴルの社会に受け入れられたと理解しています。私は自分の経験からも、子供の主体的な学びこそが質の良い教育の本質だと考えておりますので、これを実現すべく日々邁進しています。また、モンゴルに合った学校経営の体制を整えることを志しています。

 

小林大使: 新モンゴル学園は、トゴス校長が日本で通っていた山形県立西高等学校をモデルにして、お父様であるガルバドラハ理事長が開校されました。実際に日本で生活し、日本で高校生活を送っていたトゴス校長にとって、日本の高校にはどんな思い出がありますか。

 

トゴス校長: 私は、西高生であったことをとても誇りに思っています。母校は2018年に創立120周年を迎えましたが、その祝賀会に招待していただきました。その時、同窓生から近況を聞いて、母校は、卒業生をすべて社会で活躍しながらも家族をしっかりサポートする愛情深く素晴らしい女性に育てたのだと深く感動しました。私は、この西高で「自立してより良い自分のために学ぶ」姿勢を叩き込まれたと感じております。自習時間に生徒同士が活発に学びあい、高め合ったことを良く覚えています。また、自分自身を見つめ、いろいろな才能を発見し、どんな大人になりたいのかをしっかりと考える時間もいただきました。更に、私が所属した演劇部では、共同創作の素晴らしさを知りました。内向的だった私ですが、様々なスピーチ大会に出場し、深く考えたうえで自分の考えをしっかり伝えることの大切さを習得しました。学園祭で友人と舞台で歌ったことも思い出されます。

 小林大使: 新モンゴル高校には「キャリアセンター」が設置されていることが大きな特徴です。学校として生徒の進路指導を支援することに力を入れる理由は何ですか。

 

トゴス校長: 本校は、国のリーダーを養成することを当初から目標としていますので、卒業生が引き続き優れた教育を受けられるようにすることが大切です。第1期生の時から父(当時校長)は、卒業生に日本留学のチャンスが与えられるよう、スポンサーの獲得を含め支援体制を整えることに全力を注ぎました。その甲斐あって、日本留学に関して素晴らしい実績を残すことができました。当時東北大学の3年生だった私は、第1期生の中で留学を目指す生徒を日本で迎え、受験手続を代行し、試験日までに面接等の練習をさせ、受験日から合格発表日の間に一緒に合宿しながら日本における勉強と生活に慣れてもらうための訓練と心の準備を手助けしました。私が行ったこのような支援活動を、第2期生以降については父の指導の下で本校が実施するようになりました。その後、本校に日本語教員として勤務されていた今井先生、妹のスウリらの発案によって、このような支援活動を行う体制を整備したものが2014年に設立された「キャリア開発センター」です。このセンターは、日本以外の国への留学のサポートもより手厚く実施するのみならず、在学生の将来の専門、進路等の決定に当たっての支援も実施しています。小中高一貫校でキャリアセンターを持つのは本校のみですが、他の学校にも広まってほしいと願っています。

 

小林大使:新モンゴル学園では、日本の大学との提携や奨学金制度の充実にも力を入れています。モンゴルの学生のよさを日本に伝えて協力をよびかける際に、気をつけていることやアピールしている点はどんなことですか。それに対して日本からはどのような反応がありますか。

 

トゴス校長:  日本の後援者の多くの方が「新モンゴルの卒業生にはハングリー精神がある(志が高い)。」と仰います。日本の後援者の方々は、日本人学生に失われつつあるこのような精神を大切にしたいという思いもあって、当校の呼びかけに応じ支援を差し伸べて下さっていると認識しています。当校の卒業生のひた向きな志を温かく受け止め、これまで大変長い間ご協力をいただいてきた奨学金のスポンサー団体及び提携先大学の皆様に深く感謝しています。校長としての私の使命は、日本の後援者の皆様のご厚意とご期待に応えられるよう、高い志を胸に日本の大学で日本人学生と切磋琢磨しつつ勉学に励み、母国モンゴルの発展に貢献できる若者を本校卒業生の中から輩出し続けることであると自覚しております。

 

小林大使: トゴス校長は、2017年から新モンゴル学園の専務理事、昨年2月から小中高等学校の校長として赴任されました。もともとのご専門は法律だったと聞いていますが、何がきっかけで教育マネ-ジメントの仕事に入ったのでしょうか。

 

トゴス校長: 私は、東北大学法学部を卒業後帰国し、国家大会議(国会)、大統領府、法務省、JICA及び最高裁判所の共同プロジェクトに携わる等、公務員として法律分野の仕事をしてきました。もともと私自身、人々の権利義務関係を法律の解釈・適用によって定めるという仕事よりも、自由かつ柔軟な発想・方法によって人々にWin-Winな関係をもたらし得るマネージメントに興味を持っているところがありました。東北大学大学院では法学の修士号を取得したものの、別途MBAの勉強をしてこれを取得しました。そして進路について思い悩む中、自分自身がより関心を抱く経営の道に進みたいという思いが強くなっていきました。ちょうどその頃、新モンゴル学園が小中高一貫学校だけでなく幼稚園、高専、大学を併設する総合教育機関になったため経営を手伝ってほしいとの話が父からあり、新たに経営の道に入ることを即決しました。未知の分野に大変緊張して足を踏み入れたわけですが、教育について研究しつつ、法律と経営についての知識を活かし、学校という公共の利益のための機関であっても優れたマネージメントによって、持続的な発展を成し遂げ得るソーシャルビジネスに育てていける自信が芽生えています。

 

小林大使:新型コロナウイルスの流行は、世界的に子どもたちの教育に大きな悪影響を与えたと言われています。新モンゴル学園の特に小中高等学校では、子どもたちの学習が遅れないために、どのような対策を取られたのでしょうか。

トゴス校長: オンライン授業を実施するにあたって、新モンゴル学園のガントール常駐顧問の指導の下、デジタル教育プラットフォームを導入しました。ゲームや小テストを組み込んだビデオレッスンで子どもたちに基礎を理解させた後、オンライン授業で教師と子供たちが協力して課題を解決していくという「反転授業」の形式を推し進めたのです。遅れを出さないという強い意志を持った教師陣が、自身のデジタルスキルを磨き、準備に長時間を割くという献身的な努力をしたことによって、子どもたちの学習の遅れを最小限に抑えることができたと考えています。

 

小林大使:教育は社会に不可欠なソフトインフラであり、教育施設はハードインフラでもあります。こういったインフラ整備面での日本とモンゴルの協力についてどのような可能性があると思いますか。

トゴス校長: コロナ禍によって生じた学習の遅れは、子供たちの自習能力と自力でこれをなくしたいという意思によって取り戻せると私は信じています。そのため、モンゴルではあまり発展していない自習学習教材を充実させる面で、自習教育教材が豊富な日本と協力したいと考えています。本校は、数学及び理科の自習教材を翻訳・出版することを目指し、日本の出版社から翻訳権をいただくための契約を取り交わす段階に入っています。翻訳については、本校の卒業生たちに呼びかけて、タスク・フォースを設置したところです。この自習教材の翻訳監修及び普及に関して、日本大使館のお力をお貸しいただければ有難いです。また、日本で定年退職された後に新モンゴル学園で活躍いただいた綿貫先生、鈴木先生、片山先生の生徒に対する影響力を見て、このような素晴らしい能力・知識・経験をお持ちのシニアの方々にモンゴルの若者の育成に貢献いただけないだろうかと願っています。特に高専教育制度は日本からほぼそのままの形で導入しておりますが、同制度に精通されている日本人のシニアの方々にモンゴルを支援してほしいと願っています。勿論、日本とモンゴルとでは生活環境に違いがありますが、上記3名の先生方は、多くの生徒に慕われ、また、モンゴルの生活も楽しんでおられたと拝見しております。新モンゴル学園では、日本人のシニアボランティアの先生方にお越しいただく際に役立つ情報を纏めた手引きも用意しております。更に、日本人のシニアボランティアの方々にモンゴルの発展にご貢献頂きたいのは、教育分野だけではありません。民間企業、NGO等多分野にわたって、日本人のシニアボランティアの方々の能力・知識・経験が有用とされています。日本モンゴル関係の将来を担うモンゴルの若者の育成に、是非とも日本人のシニアボランティアのお力を借りしたいと思っています。

 

トゴス校長: 日本はモンゴルの教育分野においてこれまで様々なプロジェクトや協力案件を数多く実施してきました。教育分野における今後の予定について教えていただけないでしょうか。

 

小林大使: ハードインフラの面では、日本政府の一般無償資金協力によってウランバートル市を中心に59校の小中学校校舎を新設・増設いたしました。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力によって、モンゴル全国において既存の小中学校校舎の補修、寮建物の改修、幼稚園舎の補修・増設等を実施してきております。ソフトインフラの面では、モンゴルからの研修員の受け入れ、モンゴルへの海外青年協力隊、専門家等の派遣を実施するとともに、日本政府奨学金制度、人材育成奨学計画(JDS)、工学系高等教育支援事業等様々なプログラムを通じ、モンゴルの人材育成を継続的に支援してきています。今後ともモンゴル政府の要請を踏まえ、モンゴルのニーズに合致した支援を行い、モンゴルの発展そして日本モンゴル関係の強化に役立つことができれば嬉しい限りです。

小林大使:最後に、日本留学を目指す学生たちにアドバイスをお願いいたします。 

トゴス校長: 私は日本を、国民一人一人が国を思う心を持ち、高度成長を短期間で成し遂げた、モンゴルにとっての先輩国であると考えています。日本留学を、国のために尽くす精神と勤勉に努力することの大切さを学ぶ場であり、質の良い教育を受ける貴重な機会と考えて下さい。日本留学中もこのことを忘れずに勉学に励み、モンゴルを日本のような暮らしやすい国に変えるために尽力して欲しいと思います。そして、両国間の相互理解に貢献し、両国が切磋琢磨し、また、互いに補完し合い、共に一層発展できるよう心と能力を捧げてほしいと願っております。