ホスエルディン氏: AND Globalを世界的に認められるようなグローバル企業にしていきたい

特集
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2021-08-30 11:05:33


モ日外交関係樹立50周年記念に向けて

「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」シリーズI


 2022年にモンゴルと日本は外交関係樹立50周年を迎える。これに向けて弊紙は在モンゴル日本国大使館と協力し、「日本とモンゴルのビジネス交流の活性化」をテーマに、両国のビジネス分野で活躍している日本留学経験のある若手企業家をシリーズで紹介し、日モのビジネス交流の活性化を後押していくことに役立てたい。同シリーズは単なるインタビューではなく、日本大使との対談という形式で自由に話し合うのが特徴である。

 第一シリーズでは「Go Global」をスローガンに掲げるモンゴル一流フィンテック企業のAND Global社のCEOバータルホ・ホスエルディンさんとの興味深い対談を紹介する。

 AND Global社は2016年に設立され、モンゴル国内の一般消費者向けにAIスコアリングを活用した独自開発の審査システムに基づく少額無担保ローンアプリ「LendMN(レンド・エム・エヌ)」の提供を主力事業として行っており、2021年6月時点の登録ユーザー数はモンゴルの人口の1/4以上となる約93万人になっている。

 そのほか、自社のモバイル・コマース事業とあわせて他社サービスをAPI接続で繋げ、統合した仕組みで提供するスーパーアプリ「SuperUp(スーパー・アップ)」を通じて同国内で23の加盟店と提携することでデジタル・エコシステムを構築し、公共サービス、デリバリーサービス、フードデリバリー、資産運用、旅行予約等、様々な分野におけるサービスを提供している。

 AND Global社は、モンゴルでの事業以外にフィリピンでも同様なフィンテック事業を展開すると共に、モンゴルとフィリピンでの事業、実証化を通じて蓄積された技術的ノウハウ及び事業ノウハウを、フィリピン、カンボジア、インドネシア、日本、オーストラリアなどの事業者への提供を進めている。


 小林大使:2007年に国費留学生として日本留学を決めたそうですね。日本に留学しようと志したきっかけは何ですか。

 ホスエルディン氏(以下「Kh」):はい。きっかけは、曽祖母でした。曽祖母は、1939年のノモンハン事件(ハルハ川の戦争)の際、看護婦として負傷した日本人兵を看護していました。その際、日本人兵と接し、日本の方々から見習うことが多いと感銘を受けたと言います。感銘を受けた点は3つあり、1点目は誠実で約束を守ること、2点目は勤勉で努力家であること、そして3点目は時間を守るということでした。曽祖母は109歳まで生きましたが、これらの点については祖母に良く話をしたと言い、祖母は私に「日本人の様に約束を守り、頑張り屋で、時間を厳守する人になるのだよ」と良く言ってくれたものです。これがきっかけで幼い頃から日本には是非行ってみたいと志したものです。

 小林大使:日本で金融や経済を勉強し、モンゴルに戻ってきてビジネスをするという目標はいつから心に決めていたんですか。例えば他の国で博士号まで取りたい、日本にこのまま住み続けたいなど、決心が揺らぐことはなかったんですか。

 Kh:当該目標は高校卒業の頃に決めました。私はモンゴル初の日本式高等学校である新モンゴル高等学校の5期生です。高校卒業時に残した初心(書き物)に「世界に轟くモンゴルの企業を築きたい」と記載しています。私は日本に留学し、一橋大学で金融と経営学を学びました。卒業後は、より実践的な知識とノウハウを学ぶために、UBS証券株式会社やみずほ銀行に勤めました。当時、家族も増え安定した生活が望まれましたが、この決心は揺らぐことはありませんでした。自分の進むべき道を決める上で大事だったのはそのタイミングでした。UBS証券株式会社では大型のM&A案件に、みずほ銀行では企業調査部にて企業や業界の調査業務に携わりました。金融の知識をさらに深めるために、今度は投資ファンドへの道も検討していましたが、AND Globalの創業者の一人であるAnarさんとの出会いにより、初心に戻ることとなりました。


 小林大使:日本留学を終えてモンゴルに戻ってくると、日本で学んだことが生かせないんじゃないか、自分が希望する仕事ができないんじゃないかという不安の声をよく聞きます。ホソ―さんが事業を立ち上げて経営していく上で感じたモンゴルの有利な点と改善を要する点を教えてください。

 Kh:海外在住の方々が不安を持たれるのも仕方ありませんし、私もその一人でした。しかし、今になって思い返して見ますと、自分が経験してきたことがきちんと能力やノウハウとして身に付いていれば、それらを生かす機会は多分にあると感じています。年次だけで考えれば、モンゴルは資本主義に移行して30年あまりですが、今でも資本主義への移行プロセスは続いているのではないかと思っております。だからこそこの大事なプロセスの中で一経営者として国の発展に貢献することが最大の遣り甲斐でもあり、日本のような先進国で学んだことや積んだ経験は決して裏切ることはないと確信しています。それがある意味今のモンゴルの有利な点なのではないかと思っております。ちょうど社会主義と資本主義の狭間に生まれ、それを経験した私のような世代は、「あの時に大人だったら沢山のことができたのに」ということを漏らすことも少なくないのですが、今まさにその沢山のことができるタイミングなのではないかと感じています。もちろん改善を要する点は、経営の本質の捉え方、意思決定の物差しや考え方などのビジネス倫理を始めとして沢山のことがありますが、これらは若い世代や海外経験組の台頭によって徐々に改善されていくと思いますので、心配はしていません。大事なのは、これらの若い世代が各々の考え方、原理原則を曲げずに主張していくことだと思っております。

 Kh:大使は、モンゴルの有利な点と改善を要する点をどのようにお考えでしょうか。

 小林大使:私は、社会主義と民主主義・自由経済の2つの異なったモンゴルを、モンゴルにおいて、そしてモンゴル以外の国から眺めてきました。社会主義時代のウランバートルで暮らしていた時に、モンゴルがこのように変わるとは夢にも思いませんでした。1983年に外務省で勤務し始めて以降これまでに私がモンゴルを見てきて言えることは、モンゴルの長所は短所でもあり、短所は長所でもあるということです。モンゴルの特徴をどのように活かせるかによってうまく活かせれば長所、うまく活かせなければ短所となるということだと思います。例えば、GDPを増加させる上でプラスとは考えにくいモンゴルの小規模人口は、COVID-19の予防接種の迅速な実施にはプラスとなったと思います。ホソーさんからの質問の答えにあまりなっていないですね。重要なのは、モンゴルの国として、そしてモンゴル国民一人一人として、モンゴルの特徴をどのように活かすかを考え、決断し、実行する能力です。モンゴルの国・人々がこの能力を持っていることを私は観察してきています。アドバイスが出来る点があるとすれば、何かを実行することによって生じうる問題を未然に把握し防止策・対応策をより周到にすること、中長期的視点への比重を高めることの2つだと思います。

 モンゴルには、先ずやってみて問題があれば改善すれば良いという合理主義があります。起こり得る問題を事前にあれこれ考え心配しても、実際に起こらなければ無駄であるということなのでしょう。モンゴルとのおつきあいの中で私もこの合理主義を身につけることができたと思います。しかし、事前に調査・検討をして必要な予防をし、また問題が起こった時の対応を準備しておくことのメリットも大きいと思います。①問題を起さない、②問題が起きたときの対応が早い、③想定していなかった問題が起こった場合でも他の問題解決のために行った調査、検討、準備が役立つというメリットがあるからです。勿論、こういった問題対策はきりが無いので、適切な範囲内でということです。


 小林大使:AND Globalは、 2016年創業後、たった5年でモンゴル発のフィンテック企業として名を知られるようになりました。これは当初の計画どおりなのでしょうか。

 Kh:名を知られるようになったのはある意味計画通りかもしれませんが、その道中は決して計画通りとは言えません。当初からテクノロジーの会社として、モンゴルの若いエンジニアが作った技術でまずは国内市場の変革を促したものの、残念ながら我々のポテンシャルを信じてもらえず、作り上げた技術も導入されることはありませんでした。我々は自分たちの技術を確証するために自らB2C事業も手がけ、結果としてフィンテック企業という名で知られるようになりました。今、グローバルな事業パートナーに恵まれ、漸く当初のテクノロジーをもって変革を促すそのポジションに戻ってきていると思っています。

 小林大使:AND Globalの事業の概要、企業理念についてお話しください。

 Kh:当社は、モンゴル人のポテンシャルを世界に証明することを目標に5年前に設立されたテクノロジーの会社です。近年、モンゴルは数学や物理などの国際オリンピックで継続的にメダルを獲得し、安定した成績を残しています。そのため、メダリストは世界トップの大学から招待され、奨学金で大学に通える様になりました。また、シリコンバレーやウォールストリートのような世界最高峰の地でも優秀なモンゴル人エンジニアやバンカーが活躍するなど、個々人の能力の高さを証明できる様になりました。しかし、未だにチームで一致団結して世界的な成功を収めた事例もなければ、日本のトヨタやソニーの様な国を代表するグローバル企業もありません。悲しいことに、海外に行くと未だにチンギスハーンや草原、遊牧民の国として認識され、テクノロジーとは程遠いイメージを持たれてしまいます。一方では、当のモンゴルの国民も同じです。未だに800年も前のチンギスハーンばかりがモンゴル人としての誇りとして語られ、何事にもチンギスハーンの名前が使われます。当社はまさにこれを刷新し、若い世代のお手本となれる様な新たな道を切り開くことが理念です。こうした社会的な大義に賛同し、当社には世界各地から優秀なメンバーがそれぞれの安定した生活を手放し、収入を大幅に下げてまでジョインしてくれています。


 小林大使:2020年には丸紅(株)、続いて2021年にはSBIホールディングスのシンガポール子会社からの出資を獲得しています。外国からの信頼を得て、出資を獲得する際に困難だったことは何ですか。また成功の秘訣は何だったと思いますか。

 Kh:当該2社からの出資の特徴を先に申し上げますと、単なるキャッシュの出資ではなく、戦略的なパートナーシップを締結した点です。即ち単なる投資家と企業という関係ではなく、お互いにwin-winとなれる様な、補完し合う対等な関係を築いているということです。従って、出資を獲得する際に困難だった点は、テクノロジーや事業ポテンシャルを認めてもらうことに加え、パートナー企業にどの様な価値をもたらすことができるかを見出し、それらも認めてもらうことでした。実際、信頼関係を築き、自分たちの強みを認めてもらうために、グローバルに多くの出張を重ね、技術・財務・法務・コンプラなどのデューデリジェンスを含め約2年半もの時間をかけて相互理解を地道に深めていきました。価値観の違いはいつの時代でも存在しますが、大事なのは相互理解と歩み寄る姿勢と思っています。一つ一つの課題解決に誠意を持って組織で取り組めたことが、地道ながら最終的に成功への道に結び付いたと考えております。本プロセスの中で、我々は組織として多くの経験とノウハウを蓄積することができました。

 小林大使:ホソ―さんは目標を明確に立てて、その目標達成に向けてまっすぐに努力する方とお見受けしました。ホソ―さん個人の今の目標は何ですか。

 Kh:今はとにかくAND Globalを世界的に認められる様なグローバル企業にすることです。そのために、まずはパートナーとの約束をきちんと果たしたいと思います。私自身は経営者としての経験が浅く、日々挑戦の連続ですが、一刻も早く会社を牽引できる優れた経営者になれる様に、絶えず進化を図っていきたいと思います。それが当面の個人的な目標です。

 Kh:私は経営者として、一企業の代表を務めていますが、大使は日本という一国を代表しています。その重みの違いは天と地ほどあると思いますが、リーダーとして日頃から心掛けている点についてご教示お願いします。また、リーダーが持つべきもっとも重要なことは何でしょうか。

 小林大使:私は今回初めて大使職を経験し、大使としての職責の大きさを日々実感しています。また、私はもともと商家で育ち、企業経営をしていた父親の苦労を身近で見てきましたので、企業経営者の重い職責もある程度理解しています。大使の職責と企業経営者の職責にはそれぞれ特有のものがあり、これらを比較することはできません。日本大使館は日本政府の組織ですので、日本政府の外交方針・政策及び指示・命令に従って、大使館としての任務を遂行しています。自分は、どうすれば効果的に大使館の任務を遂行することができるかについて、モンゴルの事情も考慮しつつ、これまでに培った知識・経験を活用し、長期的かつ広範な視点に立って考え、決断し、行動してきているつもりです。私としては、様々な課題に対処するに当たって、大局を把握することがリーダーとしてもっとも重要なことの一つだと思っています。


 小林大使:EPA締結後も日本とモンゴルのビジネス交流はまだまだ活発とは言えません。日本とモンゴルの民間経済交流がさらに活性化するために必要なことは何だと思いますか。

 Kh:両国の民間経済交流の更なる促進を図っていくためには、モンゴル側がもっともっと勉強し、成長することが重要と考えております。形も大事ですが、何よりも「質」を上げていくことが重要と認識しています。EPAに関しては、素晴らしいプラットフォームと認識しており、活用しなければその良さが活かされません。日本は世界でもっとも成熟したマーケットであり、競争が非常に激しくなっています。従って、我々モンゴル側は、日本市場をきちんと調査し、理解することがEPA活用拡大の第一歩ではないかと考えております。

 Kh:大使は、モンゴル人がグローバルに出ていき、成功する上で必要なことは何だと思いますか。

 小林大使:モンゴルの方々についてのみ求められる成功の鍵はないように思います。いかなる分野であれ国際競争は激しく、成功と失敗が繰り返されていると思います。一部の分野を除けば、自分の努力だけでは成功を勝ち得ず、消費者・利用者も含めて相手からの信頼がなければ活動すらできません。文化・習慣・環境が異なる様々な国・国民を相手とするのですから、相手から、この人、この企業・団体は信頼できるという関係を構築することが長期・安定的な成功に不可欠だと思います。

 Kh:グローバルにチャレンジするモンゴルの若者に向けて、一言メッセージを頂けないでしょうか。

 小林大使:ビジネス、学問、スポーツ等の分野で、自らの意思でグローバルなチャレンジをするモンゴルの若者が増えてきていることを実感し、嬉しく、そして心強く思っています。先ほどホソーさんから話がありましたが、世界に名を轟かせる、歴史に残る偉業を成し遂げる、即ち世界をリードする存在となるという大望を常に忘れず努力して欲しいと思います。チンギスハーンの末裔として野心を持って下さい。自由と民主主義の国、市場経済の国として比較的新しいモンゴルには、大きなエネルギー、ダイナミズムを感じます。このエネルギーを集積し、正しい方向に使うことによって、モンゴルは急速に発展すると確信しています。既存の組織のあり方に拘る必要はありません。モンゴルの力をより発揮できる、個の集結形態も創造して欲しいと思います。